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医療機関の後継者!? M&Aを用いた第三者への承継とは

19.07.30
ビジネス【企業法務】
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医療機関に後継者が存在しない場合、これまでは院長の引退とともに閉院するというケースがほとんどでした。
しかし、最近ではM&A(企業の合併買取)の手法を用いることによって、医療機関を第三者に承継させるケースが増えています。
そこで、今回は医療機関のM&Aの三つの手法のメリット・デメリットを、法的規制とあわせてご説明していきます。
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医療機関によるM&Aのメリットとは?

医療機関がM&Aを行うメリットは、譲渡人側にも譲受人側にもあります。
まず、譲渡人側のメリットとしては、
(1)今まで診てきた患者を譲受人に託すことができる
(2)譲渡人である医療機関において勤務していた従業員を、譲受人である医療機関で勤務させ続けることができる
(3)譲渡人である医療機関の取引先との取引関係を、譲受人である医療機関に引き継がせることができる
(4)譲渡人である医療機関の院長が、引退に伴い出資持分の譲渡対価や退職金の支払いを受けることによってまとまった金銭を取得できる場合がある
といったことがあげられます。

次に、譲受人側のメリットとしては、
(1)開業におけるコストを下げることができる
(2)新規開業に比べ、金融機関の融資を受けやすくなる
(3)医師会への入会を円滑に行える
(4)患者を引き継ぐことができる
(5)従業員を引き継ぐことができる
(6)医療法人の場合、税法上の繰越欠損を引き継げる
といったことがあげられます。


医療機関のM&Aの三つの手法とは?

医療機関のM&Aの手法には、主に次の三つがあります。

(1)事業譲渡
事業譲渡について、医療法に直接定められた規定はありませんが、医療機関も会社法上の事業譲渡に準じて事業譲渡を行うことは可能と解されています。
判例上、事業譲渡とは『一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部又は重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に引き継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいう』とされています。
たとえば、スポンサーとなる医療法人が、経営難に陥った医療法人からその有する全部又は一部の病院を譲り受けるといった場合です。

事業譲渡のメリットは、譲渡対象となる権利義務関係を個別に特定する必要があるため、譲受人が承継したくない債務を承継対象から外せることです。

逆に、事業譲渡のデメリットは、譲受人が譲渡対象となる事業に関する権利義務を自動的に承継することはなく、譲受人が譲渡対象の権利を承継するには、権利移転手続を個別に行わなくてはならないこと(たとえば、取引先との権利関係を移転させたり、従業員を引き続き雇用したりする場合は、取引先の同意や従業員の同意を個別にすべて取らなくてはなりません)、そして譲受人は、譲り受けた病院につき新たに病院開設の許可を取得しなければならないことです。

(2)出資持分の譲渡
出資持分の譲渡は、持分のある医療法人において、出資持分とそれと事実上結びついている社員の地位を譲渡することによって、譲受人が医療法人の経営権を取得する方法です(現在、出資持分は医療法上認められておりませんが、旧法下で認められていた出資持分については、現在も継続して存在することが認められています)。
この場合、譲受人が、出資持分を買い受けるとともに、従前の社員を退社させ、譲受人やその関係者を社員として入社させることによって社員総会の多数派を形成し、社員総会において理事を入れ替えることによって医療法人の経営権を譲受人が取得することになります。

出資持分の譲渡のメリットは、取引先や従業員との間における契約関係に変動がないため、個別の権利移転手続きを行う必要がないことや、病院開設許可を改めて取得する必要がない点があげられます。要は、手続きが簡単ということです。

出資持分の譲渡のデメリットは、事業譲渡のように移転させたくない債務を切り離すことができない点にあります。

(3)合併
合併とは、複数の医療法人が一つの医療法人になる行為です。
一つの医療法人にほかの医療法人が吸収される吸収合併、複数の医療法人が新たな医療法人を設立して一つになる新設合併の2種類があります。
合併がなされると、消滅する医療法人のすべての権利義務が存続する医療法人に自動的に承継されることになります。

合併のメリットは、事業承継のように、個別的な権利移転手続きが不要で、原則として、病院の開設許可等の再取得が不要という点にあります。

合併のデメリットは、譲受人が除外したい債務の承継を除外できないことや、手続きが煩雑であることがあげられます。


M&Aの手法は事案ごとに個別に判断

このように医療機関のM&Aの手法には、主に三つの手続きが存在しますが、どの手続きも一長一短であるうえ、用いる手続きによって、税務上の負担に差が出てくることもあります。
必要とされる契約書の内容も、手続きによって大きく異なります。
したがって、どの手続きを用いるのかは、事案によって個別的に判断せざるを得ず(場合によっては、信託といったスキームを使うことも考慮すべきでしょう)、複雑な判断も必要となるため、検討は慎重にされることをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2019年7月現在の法令・情報等に基づいています。