英文契約書における“Consideration(約因)”の概念とは?
昨今では企業活動のグローバル化に伴い、日本企業が海外の企業と契約を交わすシーンが増えています。
英米法に基づく契約と日本法に基づく契約では異なる部分もあるため、慣れるまでは戸惑うことがあるかもしれません。
その一つが、“Consideration”の存在でしょう。“Consideration”は、英米法をベースにした契約の成立要件とされているものですが、日本法に基づいた契約にはそれにあたるものはありません。
そこで今回は、英米法独特の概念である“Consideration”についてご紹介します。
英米法に基づく契約と日本法に基づく契約では異なる部分もあるため、慣れるまでは戸惑うことがあるかもしれません。
その一つが、“Consideration”の存在でしょう。“Consideration”は、英米法をベースにした契約の成立要件とされているものですが、日本法に基づいた契約にはそれにあたるものはありません。
そこで今回は、英米法独特の概念である“Consideration”についてご紹介します。
英米法で重要視される『約因』
日本法では、申し込みに対して承諾があったときに契約が成立します。
一方、英米法では“申込に対する承諾”だけでは足りず、さらなる要件が求められます。その中で最も重視されているのが“Consideration”です。
Considerationは『考慮、対価』などの意味を持つ単語で、契約においては『約因』と訳されます。
約因は、“契約当事者間に存在しなければならない取引上の損失”のことで、契約においてどちらかが一方的に負担や義務を負う場合は“約因がないため契約は成立しない”ことになります。つまり、ギブアンドテイクの関係が成り立っていることが、契約成立の要件の一つとなっているのです。
なお、約因の相当性は問われないので、対価は必ずしも等価値である必要はありません。どんなに客観的には不釣合いな約因であっても、それが約因であると当事者が決めればそれでよいのです。また、対価は金銭に限定されません。
既存の契約を変更する際は注意が必要
英米法においては、契約に効力を持たせるために『約因』が必要となります。
ただし、ビジネスの取引では当事者双方に何らかの対価的利益があることが一般的であるため、通常の新たな取引であれば、約因が問題となることはあまりありません。
約因が問題になりやすいのは、既存の契約を変更する場面においてです。
具体的には、契約後、契約上の債務を債権者が全部もしくは一部免除にしたり、債務について分割払いを認めたりするケースです。この場合、債務者が一方的に利益を取得するのみで、債権者はその利益の対価を得ていないといえます。
そのため約因を欠くこととなり、債務免除や分割払いの契約は不成立となり、債権者は契約通りに全額を請求することが可能となります。
たとえば、A社が海運会社のB社に、アメリカから日本に所定の期日までに所定の貨物の運搬を依頼し、B社はA社からその対価として1,000ドルを受け取るという契約を締結したとします。しかし、B社のミスで、所定の期日までに貨物を届けることができなくなりました。そこで、A社は「所定の期日までに運搬すれば追加ボーナスを払う」という提案をし、契約の変更を行いました。
この場合、A社は追加の金銭を払うという負担がありますが、B社はもともとの義務を負っているだけで、追加の負担が一切ありません。
こうしたケースでは、原則として“約因を欠く”と判断されます。
実行済の過去の負担は『約因』にならない
また、実行済の過去の負担は『約因』にはならないとされています。
たとえば、契約締結前に提供していた機密情報について、契約時に一方だけが守秘義務を負担する場合、契約不成立と判断される可能性があります。機密情報の提供は実行済の過去の負担となるため、守秘義務を守ることの対価とはならず、約因が存在しないことになってしまうのです。
このような場合は、契約の前文で名目だけの金員の支払いを定め、これを約因とするなどとします。約因は、形式的なものでもかまいません。
『約因』は、英米法に基づく契約において法的拘束力を持たせるために必要なものです。
“捺印証書”と呼ばれる書面による契約でない限り、約因を欠くと、契約として認められません。
海外の企業と英米法をベースにした契約を行う際は、『約因』の概念を十分に理解したうえで、取引条件を決めていくようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2019年6月現在の法令・情報等に基づいています。
日本法では、申し込みに対して承諾があったときに契約が成立します。
一方、英米法では“申込に対する承諾”だけでは足りず、さらなる要件が求められます。その中で最も重視されているのが“Consideration”です。
Considerationは『考慮、対価』などの意味を持つ単語で、契約においては『約因』と訳されます。
約因は、“契約当事者間に存在しなければならない取引上の損失”のことで、契約においてどちらかが一方的に負担や義務を負う場合は“約因がないため契約は成立しない”ことになります。つまり、ギブアンドテイクの関係が成り立っていることが、契約成立の要件の一つとなっているのです。
なお、約因の相当性は問われないので、対価は必ずしも等価値である必要はありません。どんなに客観的には不釣合いな約因であっても、それが約因であると当事者が決めればそれでよいのです。また、対価は金銭に限定されません。
既存の契約を変更する際は注意が必要
英米法においては、契約に効力を持たせるために『約因』が必要となります。
ただし、ビジネスの取引では当事者双方に何らかの対価的利益があることが一般的であるため、通常の新たな取引であれば、約因が問題となることはあまりありません。
約因が問題になりやすいのは、既存の契約を変更する場面においてです。
具体的には、契約後、契約上の債務を債権者が全部もしくは一部免除にしたり、債務について分割払いを認めたりするケースです。この場合、債務者が一方的に利益を取得するのみで、債権者はその利益の対価を得ていないといえます。
そのため約因を欠くこととなり、債務免除や分割払いの契約は不成立となり、債権者は契約通りに全額を請求することが可能となります。
たとえば、A社が海運会社のB社に、アメリカから日本に所定の期日までに所定の貨物の運搬を依頼し、B社はA社からその対価として1,000ドルを受け取るという契約を締結したとします。しかし、B社のミスで、所定の期日までに貨物を届けることができなくなりました。そこで、A社は「所定の期日までに運搬すれば追加ボーナスを払う」という提案をし、契約の変更を行いました。
この場合、A社は追加の金銭を払うという負担がありますが、B社はもともとの義務を負っているだけで、追加の負担が一切ありません。
こうしたケースでは、原則として“約因を欠く”と判断されます。
実行済の過去の負担は『約因』にならない
また、実行済の過去の負担は『約因』にはならないとされています。
たとえば、契約締結前に提供していた機密情報について、契約時に一方だけが守秘義務を負担する場合、契約不成立と判断される可能性があります。機密情報の提供は実行済の過去の負担となるため、守秘義務を守ることの対価とはならず、約因が存在しないことになってしまうのです。
このような場合は、契約の前文で名目だけの金員の支払いを定め、これを約因とするなどとします。約因は、形式的なものでもかまいません。
『約因』は、英米法に基づく契約において法的拘束力を持たせるために必要なものです。
“捺印証書”と呼ばれる書面による契約でない限り、約因を欠くと、契約として認められません。
海外の企業と英米法をベースにした契約を行う際は、『約因』の概念を十分に理解したうえで、取引条件を決めていくようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2019年6月現在の法令・情報等に基づいています。