求職者に採用内定を出したら、労働契約が成立する?
従業員採用は多くの企業で行われており、たとえば新卒採用のように、即採用せず“内定”を出している企業も少なくないでしょう。
万が一、内定を出した後の顔合わせの席で“こういう人を採りたいわけではなかった!”と判明した場合、内定を取消すことはできるのでしょうか?
今回は、ある判例をもとに、内定取消しが認められる事由についてご説明します(※概要や判決内容は簡略化)。
万が一、内定を出した後の顔合わせの席で“こういう人を採りたいわけではなかった!”と判明した場合、内定を取消すことはできるのでしょうか?
今回は、ある判例をもとに、内定取消しが認められる事由についてご説明します(※概要や判決内容は簡略化)。
内定取消しに関する代表的な判例
【最判昭和54.7.20『採用内定-大日本印刷事件』】
<事案の概要>
Y社はA大学を通じて、翌年卒業予定者に対する求人募集を行っていました。
Xさんは、A大学の推薦を得てこの募集に応募。
試験から約10日後に採用内定通知を受け取り、同封されていた誓約書(一般的な取消事由が記載されているもの)に所要事項を記入。
これをY社に送付しました。
A大学は、学生の推薦を2枠に限定し、いずれかで内定が出たらもう一方を断るよう学生に指導していたため、Xさんは他社への応募を辞退。
しかし、Y社は翌年2月12日に突如としてXさんに対し、採用内定を取り消す旨を通知したのです。
なお、Y社はこの採用内定取消通知に理由を付けませんでした。(後に、訴訟においてはXさんのグルーミー(陰気)な印象を打ち消す材料が出てこなかったことを主な理由として主張しました。)
Xさんは、大学を通じてY社と交渉したものの、成果を得られなかったため、『採用内定通知により労働契約が成立し、かつ内定取消しは無効である』として、従業員としての地位確認などを請求する訴えを提起しました。
判旨の概要
(1)採用内定の法的性質
・採用内定制度は企業により多様であるため、法的性質は個別に検討すべき
・本件では、採用内定通知のほかに契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていない
この事情から、Y社からの募集(申込みの誘引)に対し、Xさんが応募したのは“労働契約の申込み”であり、採用内定通知は“申込みに対する承諾”である。
そのため、誓約書の締結により、X・Y社間には『始期付・解約権留保付の労働契約が成立した』といえる。
(2)採用内定取消通知
・(1)から、本件採用内定取消しの通知は『留保解約権に基づく解約申入れ』
・新卒予定者で、いったん採用内定を受けた者は、卒業後の就業を期して他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例
このことから、就労の有無という違いはあるものの、採用内定者の地位は一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的に同一。
したがって、採用内定取消しについても、試用期間についての判例法理が同様に当てはまる。
したがって、採用内定の取消しは、以下の場合に限られる。
・採用内定の取消事由が『採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実』であること
・これを理由に『解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的だと認められ、社会通念上相当として是認することができるもの』
Y社において、Xさんがグルーミー(陰気)な印象であることは、当初からわかっていたこと。
にもかかわらず、その段階で調査を尽くさず不適格と思いながらも採用内定を出し、その後“グルーミーな印象を打ち消す理由がない”として内定を取り消すことは、『解約留保権の趣旨・目的に照らし社会通念上相当として是認すること』ができない。
<結論>
以上のことから、『内定取消しは無効であり、Xさんは従業員としての地位を有する』との判決がなされました。
内定取消しは事由が限定される
採用内定の際、ほかに手続が予定されていなければ、内定通知により(始期付・解約権留保付とはいえ)労働契約が成立します。
そのため、通常解雇よりは有効になりやすいとはいえ、以下の要件を両方満たす場合しか内定を取消すことはできません。
1. 当初知ることができないような事実が判明した場合
2. この事実からして、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと客観的にいえる場合
要するに“よくよく話してみたら思っていた人柄ではなかった”とか“業務に影響のない事項を秘匿していたことが判明した”などの理由では、内定取消しが無効になるのです。
最近では、これに似た問題で採用内々定というものもあります。
採用内々定については、『契約締結までの過程に過ぎず、将来労働契約を結ぶための予約程度の意味しかない』と一般に解されているため、原則として“内定とは違う”という見方が一般的です。
結局、内々定といっても、採用することを明確に伝えたり、通知を受けた人が他の就職先を断ったりしてしまえば、内定取消しと同じ話になります。
そのため、採用の意向を伝える際には、通知を受けた人が採用をどの程度期待するかという観点から、慎重に判断しなければならないのです。
採用通知や内定取消しについて、ご不明な点があれば、専門家へご相談ください。
企業成長のための人的資源熟考
【最判昭和54.7.20『採用内定-大日本印刷事件』】
<事案の概要>
Y社はA大学を通じて、翌年卒業予定者に対する求人募集を行っていました。
Xさんは、A大学の推薦を得てこの募集に応募。
試験から約10日後に採用内定通知を受け取り、同封されていた誓約書(一般的な取消事由が記載されているもの)に所要事項を記入。
これをY社に送付しました。
A大学は、学生の推薦を2枠に限定し、いずれかで内定が出たらもう一方を断るよう学生に指導していたため、Xさんは他社への応募を辞退。
しかし、Y社は翌年2月12日に突如としてXさんに対し、採用内定を取り消す旨を通知したのです。
なお、Y社はこの採用内定取消通知に理由を付けませんでした。(後に、訴訟においてはXさんのグルーミー(陰気)な印象を打ち消す材料が出てこなかったことを主な理由として主張しました。)
Xさんは、大学を通じてY社と交渉したものの、成果を得られなかったため、『採用内定通知により労働契約が成立し、かつ内定取消しは無効である』として、従業員としての地位確認などを請求する訴えを提起しました。
判旨の概要
(1)採用内定の法的性質
・採用内定制度は企業により多様であるため、法的性質は個別に検討すべき
・本件では、採用内定通知のほかに契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていない
この事情から、Y社からの募集(申込みの誘引)に対し、Xさんが応募したのは“労働契約の申込み”であり、採用内定通知は“申込みに対する承諾”である。
そのため、誓約書の締結により、X・Y社間には『始期付・解約権留保付の労働契約が成立した』といえる。
(2)採用内定取消通知
・(1)から、本件採用内定取消しの通知は『留保解約権に基づく解約申入れ』
・新卒予定者で、いったん採用内定を受けた者は、卒業後の就業を期して他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例
このことから、就労の有無という違いはあるものの、採用内定者の地位は一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的に同一。
したがって、採用内定取消しについても、試用期間についての判例法理が同様に当てはまる。
したがって、採用内定の取消しは、以下の場合に限られる。
・採用内定の取消事由が『採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実』であること
・これを理由に『解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的だと認められ、社会通念上相当として是認することができるもの』
Y社において、Xさんがグルーミー(陰気)な印象であることは、当初からわかっていたこと。
にもかかわらず、その段階で調査を尽くさず不適格と思いながらも採用内定を出し、その後“グルーミーな印象を打ち消す理由がない”として内定を取り消すことは、『解約留保権の趣旨・目的に照らし社会通念上相当として是認すること』ができない。
<結論>
以上のことから、『内定取消しは無効であり、Xさんは従業員としての地位を有する』との判決がなされました。
内定取消しは事由が限定される
採用内定の際、ほかに手続が予定されていなければ、内定通知により(始期付・解約権留保付とはいえ)労働契約が成立します。
そのため、通常解雇よりは有効になりやすいとはいえ、以下の要件を両方満たす場合しか内定を取消すことはできません。
1. 当初知ることができないような事実が判明した場合
2. この事実からして、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと客観的にいえる場合
要するに“よくよく話してみたら思っていた人柄ではなかった”とか“業務に影響のない事項を秘匿していたことが判明した”などの理由では、内定取消しが無効になるのです。
最近では、これに似た問題で採用内々定というものもあります。
採用内々定については、『契約締結までの過程に過ぎず、将来労働契約を結ぶための予約程度の意味しかない』と一般に解されているため、原則として“内定とは違う”という見方が一般的です。
結局、内々定といっても、採用することを明確に伝えたり、通知を受けた人が他の就職先を断ったりしてしまえば、内定取消しと同じ話になります。
そのため、採用の意向を伝える際には、通知を受けた人が採用をどの程度期待するかという観点から、慎重に判断しなければならないのです。
採用通知や内定取消しについて、ご不明な点があれば、専門家へご相談ください。
企業成長のための人的資源熟考