消費者間の相互作用に関連して「信頼と安心」について考えよう
ビジネスを行うに際して、また消費者間の相互作用を活用しようとするに当たって、人々の間の「信頼」について考えるのは、重要なことです。
人は、どのようなとき、誰に対して「信頼」を感じるのか? この点について興味深い論考をしているのが、社会心理学者・山岸俊男先生です。
人は、どのようなとき、誰に対して「信頼」を感じるのか? この点について興味深い論考をしているのが、社会心理学者・山岸俊男先生です。
■日本人はアメリカ人よりも人を信頼していない!?
一般に日本は、集団主義ゆえの「高信頼国」だと考えられています。しかし、日米での信頼についてのアンケート調査の結果を通じて、山岸先生はそのことに異論を唱えています。
信頼に関する以下のようないくつかの質問で、米国の方が日本よりも高いスコアを記録しました。
「ほとんどの人は信頼できる」
「ほとんどの人は他人を信頼している」
「ほとんどの人は基本的に善良で親切である」
「私は、人を信頼するほうである」
「たいていの人は、人から信頼された場合、同じようにその相手を信頼する」
つまり、そのアンケート調査からは“日本人はアメリカ人よりも人を信頼していない”ということが読み取れました。
■「信頼」と「安心」を区別して考える必要がある
この結果について、山岸先生は「信頼と安心を区別して考える必要があるのではないか」と指摘しています。
つまり、これまでの日本は島国で社会も閉ざされていて、裏切れば“村八分”といった制裁を受けました。だから、日本人は、他人は簡単に自分を裏切ったりしないだろうと「安心」していたのであり、人間一般を「信頼」してきたわけではないのではないか、と言うのです。
山岸先生の著書では、「信頼できる相手」を見極める能力についても、日本よりアメリカの方が高いという実験結果が示されています。
この意見は、現代の日本社会を生きるわれわれにとって、大変に示唆に富むものだと思います。従来われわれは、同じ会社の人だから、同じ系列の人だから、簡単に裏切りはしないだろうと「安心」することで、ビジネスを行ってきました。
しかし現在では、外資系企業が参入し、あるいは日本企業が外資系企業の傘下となることも少なくありません。今後は「安心できる要素」を持たない人たちと仕事をしなければならない局面もどんどん増えていくでしょう。
また、インターネットやソーシャルメディアの普及によるさまざまな人との出会いなど、いま相対している人がどんな人なのかわからないケースも出現しています。一方で、このような相手とうまく協力できれば、ビジネスで良い結果を得られる可能性も少なくありません。
こういった点から、信頼できる相手と信頼できない相手を見分ける能力、信頼できそうな相手とは(同じ会社の所属などではないケースでも)しっかりと協力する能力が、ビジネスを発展させる上で重要になってくると考えられます。
■ソーシャルメディア上だけでの付き合いからビジネスに発展した事例
ソーシャルメディア上だけでの付き合いだけでも、信頼できる相手を見極めると、実際に会ったときにビジネスで協力できるようになることがあります。
ツイッターで知り合った関東と関西の大学教授同士の例を挙げます。ツイッターでの交流が縁で、ゲスト講師として呼んでもらう関係になり、実際のビジネスで協力する関係へと発展したそうです。
講義開始の15分前が、2人にとってリアルな場面での初対面。それでも何の違和感もなく講義を遂行できたとのこと。その後は、共同研究の相談などもするまでの関係性を築き上げました。
もちろん、ソーシャルメディア上の人みんながみんな、決して信用できるわけではありません。この教授同士のケースに限って言えば、信頼できる人を見極めて、その人を信頼して協力する能力を発揮できたことになります。
皆さんも、ご自身のビジネスに関して、「信頼」と「安心」について一考されてみてはいかがでしょうか? 従来のビジネスでは出会うことのなかった人たちとのコラボレーションで、今まで考えつかなかった発想が得られるなど、何か新しい展開が開けるかもしれませんよ。
次回は、キャリア論の有名理論「プランド・ハップンスタンス(計画された偶然性)」について、考えていきましょう。
佐藤達郎のマーケティング論
●プロフィール●
佐藤達郎(さとう・たつろう)
多摩美術大学教授(広告論/マーケティング論)、コミュニケーション・ラボ代表。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校、一橋大学、アサツーDK、(青学MBA)、博報堂DYを経て、2011年4月より現職。著書に、『NOをYESにする力!』『アイデアの選び方』『自分を広告する技術』『教えて!カンヌ国際広告祭』がある。
一般に日本は、集団主義ゆえの「高信頼国」だと考えられています。しかし、日米での信頼についてのアンケート調査の結果を通じて、山岸先生はそのことに異論を唱えています。
信頼に関する以下のようないくつかの質問で、米国の方が日本よりも高いスコアを記録しました。
「ほとんどの人は信頼できる」
「ほとんどの人は他人を信頼している」
「ほとんどの人は基本的に善良で親切である」
「私は、人を信頼するほうである」
「たいていの人は、人から信頼された場合、同じようにその相手を信頼する」
つまり、そのアンケート調査からは“日本人はアメリカ人よりも人を信頼していない”ということが読み取れました。
■「信頼」と「安心」を区別して考える必要がある
この結果について、山岸先生は「信頼と安心を区別して考える必要があるのではないか」と指摘しています。
つまり、これまでの日本は島国で社会も閉ざされていて、裏切れば“村八分”といった制裁を受けました。だから、日本人は、他人は簡単に自分を裏切ったりしないだろうと「安心」していたのであり、人間一般を「信頼」してきたわけではないのではないか、と言うのです。
山岸先生の著書では、「信頼できる相手」を見極める能力についても、日本よりアメリカの方が高いという実験結果が示されています。
この意見は、現代の日本社会を生きるわれわれにとって、大変に示唆に富むものだと思います。従来われわれは、同じ会社の人だから、同じ系列の人だから、簡単に裏切りはしないだろうと「安心」することで、ビジネスを行ってきました。
しかし現在では、外資系企業が参入し、あるいは日本企業が外資系企業の傘下となることも少なくありません。今後は「安心できる要素」を持たない人たちと仕事をしなければならない局面もどんどん増えていくでしょう。
また、インターネットやソーシャルメディアの普及によるさまざまな人との出会いなど、いま相対している人がどんな人なのかわからないケースも出現しています。一方で、このような相手とうまく協力できれば、ビジネスで良い結果を得られる可能性も少なくありません。
こういった点から、信頼できる相手と信頼できない相手を見分ける能力、信頼できそうな相手とは(同じ会社の所属などではないケースでも)しっかりと協力する能力が、ビジネスを発展させる上で重要になってくると考えられます。
■ソーシャルメディア上だけでの付き合いからビジネスに発展した事例
ソーシャルメディア上だけでの付き合いだけでも、信頼できる相手を見極めると、実際に会ったときにビジネスで協力できるようになることがあります。
ツイッターで知り合った関東と関西の大学教授同士の例を挙げます。ツイッターでの交流が縁で、ゲスト講師として呼んでもらう関係になり、実際のビジネスで協力する関係へと発展したそうです。
講義開始の15分前が、2人にとってリアルな場面での初対面。それでも何の違和感もなく講義を遂行できたとのこと。その後は、共同研究の相談などもするまでの関係性を築き上げました。
もちろん、ソーシャルメディア上の人みんながみんな、決して信用できるわけではありません。この教授同士のケースに限って言えば、信頼できる人を見極めて、その人を信頼して協力する能力を発揮できたことになります。
皆さんも、ご自身のビジネスに関して、「信頼」と「安心」について一考されてみてはいかがでしょうか? 従来のビジネスでは出会うことのなかった人たちとのコラボレーションで、今まで考えつかなかった発想が得られるなど、何か新しい展開が開けるかもしれませんよ。
次回は、キャリア論の有名理論「プランド・ハップンスタンス(計画された偶然性)」について、考えていきましょう。
佐藤達郎のマーケティング論
●プロフィール●
佐藤達郎(さとう・たつろう)
多摩美術大学教授(広告論/マーケティング論)、コミュニケーション・ラボ代表。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校、一橋大学、アサツーDK、(青学MBA)、博報堂DYを経て、2011年4月より現職。著書に、『NOをYESにする力!』『アイデアの選び方』『自分を広告する技術』『教えて!カンヌ国際広告祭』がある。