飲食店における『カスハラ』の判断基準と対応策
顧客による暴行や脅迫、ひどい暴言や不当な要求などの著しい迷惑行為のことを「カスタマーハラスメント(カスハラ)」といいます。
近年、カスハラは深刻化しており、特にお客との接触が不可欠で、被害に遭いやすい飲食業は早急な対策を迫られています。
飲食店におけるカスハラは、従業員の負担の増加や店内の雰囲気の悪化など、さまざまな悪影響を引き起こします。
もし、カスハラを受けた場合はどのように対応すればよいのでしょうか。
カスハラの現状や判断基準、対応策などを把握しておきましょう。
カスハラの現状と想定される被害
厚生労働省は、2019年に行われた労働施策総合推進法などの改正を踏まえ、2022年4月より、すべての事業者に対して、カスハラ被害を防止するための対策に取り組むよう求めました。
この背景には、企業におけるカスハラ被害の増加があります。
2020年に行われた厚生労働省の企業調査によると、過去3年間に従業員からカスハラ被害の相談を受けた企業は19.5%となっています。
3年間の相談件数の推移を見ると、セクハラやパワハラなどと違い、カスハラの相談件数のみ「増加している」の割合のほうが「減少している」の割合より高いことがわかりました。
セルフレジや配膳ロボットなどの登場で無人化の進む飲食業ですが、それでもほかの業種よりも圧倒的にお客との接触が多くなります。
あるインターネット調査では、カスハラを受けたことのある飲食店スタッフは回答者の半数以上だったというデータもあります。
カスハラ行為をするお客から攻撃的な態度で責められたり、大声で怒鳴られたりすると、従業員にとっては大きなストレスとなり、メンタルヘルスの悪化によって、退職に追い込まれてしまうケースもあります。
また、店のイメージや雰囲気も悪くなるため、食事を楽しんでいたほかのお客が退店してしまう可能性もあります。
対応に時間や手間が取られ、従業員やほかのお客の迷惑になるカスハラは、飲食店として絶対に防がなければいけません。
しかし、すべてのクレームがカスハラではないことに注意が必要です。
厚生労働省では「要求内容に妥当性がなく、その要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当であり、労働者の就業環境が害されるもの」をカスハラと定義しています。
たとえば、料理の提供が遅れたことに対しての意見であれば、要求内容に妥当性があり、カスハラとはいえませんが、「早くしろ!」と店員を怒鳴ったり、人格を否定するような言葉を発したりする行為は、その手段が社会通念上不相当であるため、カスハラに該当します。
カスハラへの対処は冷静になることが大事
店でお客からクレームを受けたら、現状を正確に把握し、まずは事実を確認しましょう。
特に店の責任者はお客の発言を遮ったり、反論したりすることなく、最後まで耳を傾けることが大切です。
同時にクレームを受けた従業員の話も聞きます。
ヒアリングの結果、正当なクレームだった場合は、お客に謝罪して、必要な対応を行いましょう。
しかし、もしカスハラの定義に当てはまるようなものだった場合は、従業員と店を守るためにも、落ち着いて冷静に対処しなければいけません。
こちらが感情的になってしまうと、カスハラ行為をするお客を激昂させることにもなります。
大声を張り上げたり、暴言を止めなかったりするお客には、あくまで丁寧な口調で、「ほかのお客様のご迷惑になりますので……」と退店を促しましょう。
また、後で「言った、言わない」の水掛け論になることを避けるために、スマホのアプリやICレコーダーなどでやり取りを録音しておくことをおすすめします。
もし、お客から暴力を受けた場合は、ためらうことなく早急に警察へ通報しましょう。
暴力行為は暴行罪や傷害罪、威力業務妨害罪などに問われる犯罪です。
土下座の強要や長時間の居座り、金銭の要求なども犯罪行為に該当する可能性があるため、警察へ通報する必要があります。
カスハラの発生は事前に予測することができません。
しかし、従業員やスタッフに対してカスハラ行為を見据えた教育を行うことで、適切に対応できるようになります。
スタッフがカスハラ客に扮した店内でのロールプレイングなどは、接客能力の向上に役立ちますし、自信がつくことでストレスの軽減にも効果的です。
さらに、カスハラへの対処マニュアルを作成して、アルバイトも含めたスタッフ全体で共有しておくことで、突然のカスハラ行為にも落ち着いて対処できるようになります。
マニュアルがあれば全員が一貫した対応を取れるようになるため、接客したスタッフによって対応の差が出ることもなくなるでしょう。
厚生労働省では、飲食店にも応用できる企業向けのマニュアルやリーフレット、ポスターなどを公開しているので、活用してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2025年2月現在の法令・情報等に基づいています。