医療法人による経営情報の報告が義務化! その背景と報告方法
医療法の改正に伴い、2023年8月から医療法人は病院や診療所の経営情報を報告することが義務になりました。
これまで医療法人では事業報告書や監査報告書を作成して提出することが義務づけられていましたが、今後は経営情報についても各都道府県知事に対して報告することになります。
報告の義務化には、国による医療機関の経営情報に関するデータベースの整備が背景にありました。
医師であれば理解しておきたい義務化の成り立ちや、提出方法などについて解説します。
集められた経営情報は何に使われる?
病院や診療所の経営情報とは、入院診療収益や外来診療収益などからなる「医業収益」、材料費や給与費などからなる「医業費用」など、経営状況を明らかにする情報のことで、ほかにも、医業利益・損失、医業外収益、医業外費用、臨時収益などが含まれます。
「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」により、医療法が改正され2023年8月以降に決算期を迎えた医療法人は、開設している病院や診療所ごとに、この経営情報を期限内に各都道府県知事へ報告することになりました。
期限は原則として会計年度終了から3カ月以内ですが、大規模な医療法人は4カ月以内と定められています。
大規模な医療法人とは、医療法第51条第2項に該当し、会計情報である財産目録、貸借対照表および損益計算書について、公認会計士または監査法人による外部監査を受ける必要のある医療法人のことです。
今後、医療法人は事業報告書などとは別に、毎年この経営情報を報告する必要があります。
ただ、厚生労働省の発表によれば、すでに報告の期限を迎えている2023年8月決算法人について、該当の6,458法人のうち、2023年12月末時点で報告を済ませている法人は1,581法人にとどまっています。
経営状況の報告は義務ですが、罰則などは設けられていません。
厚生労働省では、事務処理に支障などが生じてしまうため、遅延せず期限内に報告するよう求めています。
一方、2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響で直ちに対応できない場合は、震災への対応を優先し、落ち着いてからの対応で問題ないとしています。
集められた経営情報は、データベース化されて、国による医療提供体制の確保に必要な企画や立案、国民への説明などに活用されます。
データベース化された経営情報の分析結果は、国民に向けて公表されることもありますが、個別の医療機関の情報が明かされることはないので安心してください。
「書面」と「G-MIS」による報告方法
経営情報を報告する方法は「書面」で報告する方法と、事業報告書の報告でも使用されている「医療機関等情報支援システム(G-MIS)」を使用して報告する方法があります。
書面で報告する場合は、厚生労働省や各都道府県の保健医療局のホームページから報告様式をダウンロードし、必要事項を記入したうえで、各都道府県の保健医療局に提出します。
「G-MIS」を使用する場合は、一度ログインしてから、所定の様式をダウンロードし、作成後にアップロードする必要があります。
記載に間違いがあれば、各都道府県からメールで通知されます。
「G-MIS」は、病院の稼働状況、病床や医療スタッフの状況、受診者数、検査数、医療機器(人工呼吸器等)や医療資材(マスクや防護服等)の確保状況などを一元的に把握・支援する医療機関等情報支援システムのことで、厚生労働省が運営しています。
利用に際してはあらかじめ申請する必要があるので、厚生労働省のホームページなどで確認しておきましょう。
また、G-MIS事務局への問い合わせについては、2024年6月3日から問い合せフォームでの受付のほか、電話による受付も再開されました。
高齢化や医療の高度化などによって、日本では医療費が年々増加しています。
保険診療の対象となる病気、怪我の治療で医療機関に支払われた2021年度の医療費の総額は、前年度より2兆694億円増えて、45兆359億円でした。
ほかにも生産年齢人口の減少や医療資源の地域格差など、さまざまな課題の解決に向けて、経営情報の収集と活用が本格化します。
データベースの情報を研究者などへ提供する制度も創設される予定です。
医療をめぐる課題解決のためにも、医療法人として遅延なく経営情報の報告を行うようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2024年8月現在の法令・情報等に基づいています。