『嘱託社員』が組織を支える! 契約社員との違いとは?
統計局のデータによると2020年に、65歳以上の高齢者の就業者の数が900万人を突破しました。
65~69歳の就業率は10年連続で上昇しており、今後もその傾向は続いていくと見られています。
そして、人手不足の解消に向けて、高齢者の雇用に取り組む動きが活発になっています。
定年を迎えた高齢社員を再雇用する『嘱託社員』は、多くの企業で採用されている雇用形態の一つで、企業側にさまざまなメリットをもたらします。
その一方で、リスクがないわけではありません。
ここでは再雇用された非正規労働者としての嘱託社員について説明します。
嘱託社員と契約社員に違いはない?
「嘱託」には、「頼んで任せる」「仕事を依頼する」などの意味があり、嘱託社員は企業から仕事を依頼された労働者を指します。
ただし、法的に嘱託社員という区分は存在せず、基本的には契約社員と同じ非正規雇用労働者という扱いに該当します。
多くの企業では、期間の定めがある有期雇用契約の従業員を『契約社員』、定年退職後に契約社員として再雇用した従業員を『嘱託社員』と呼び分けているケースが多いようです。
業務や待遇面で双方に大きな違いはなく、雇用条件についても「賞与なし」「退職金なし」など、契約社員と嘱託社員を同条件にしている企業がほとんどです。
つまり、契約社員の一部が嘱託社員として扱われるといえます。
雇用期間についても、正社員は期間に定めのない無期雇用ですが、嘱託社員は契約社員と同じ有期雇用であるため、あらかじめ半年や1年など、雇用期間を決めたうえで雇用契約を締結することになります。
総務省統計局の調査によれば、2022年時点で高齢雇用者のうち嘱託社員として働いている就業者の割合は6.6%でした。
嘱託社員を雇用する企業側のメリットは、自社でキャリアを重ねてきている人であるため、これまで培ってきた豊富な経験やスキルをそのまま仕事に活用してもらえることです。
長年勤めてきただけあり、会社とのミスマッチも起きず、ほかの社員とすり合わせする必要もありません。
嘱託社員にとっても、すでに慣れ親しんだ職場であるため、即戦力として実力を遺憾なく発揮することが可能です。
また、人材を一から育てる必要もないため育成コストがかからず、人件費も抑えることが可能です。
嘱託社員を雇用する際の注意点とは
多くのメリットがある嘱託社員ですが、注意しなければならない点もいくつかあります。
一つは、高齢に伴う怪我や病気のリスクがあるということです。
高齢就業者はどうしても健康面の問題が増えるため、嘱託社員として雇用しても、短期間で退職してしまう可能性があります。
健康面から、定年前のような働き方をしてもらうことがむずかしいケースもあるでしょう。
嘱託社員として再雇用する場合は、労使間で話し合い、可能な勤務日数や1日の労働時間などを十分に確認しておく必要があります。
場合によっては、フレックスタイム制や時短勤務などの導入も検討し、柔軟な働き方ができるように配慮しましょう。
待遇についても注意が必要です。
パートタイム・有期雇用労働法8条・9条では、正社員と有期雇用労働者の不合理な待遇差や差別的な取り扱いを禁止しています。
これを『同一労働同一賃金』といいます。
もし、定年前と変わらない業務をしてもらうのであれば、賃金はもちろん、手当や福利厚生に格差をつけてはいけません。
また、企業によっては、嘱託社員と若手社員の間で起きがちなコミュニケーション不全も懸念材料の一つです。
これまで会社を支えてきた自負のある嘱託社員と、これから頑張るべき若手社員では、仕事への向き合い方や考え方が異なります。
管理職だった人物を退職後に再雇用する場合、かつての部下が上司になるケースも考えられ、摩擦が起きる可能性もあるでしょう。
こうした摩擦は、嘱託社員の認識の違いから起きることもあります。
若手の育成を担うサポート担当なのか、それとも現役時代と同様に若手と働くプレイヤー担当なのか、会社は嘱託社員にどういった役割を期待するのかを伝えるようにしましょう。
本人はプレイヤーだと認識しているのに、会社が求めているものが若手のサポートであれば当然、齟齬が起きます。
役割を明確にすると同時に、適切なフォローを心がけましょう。
退職後に嘱託社員として採用する場合、ベテランならではの力を組織で発揮してもらうためには、適切な業務の割り当てとフォローが必要です。
嘱託社員が制度化されていないのであれば、会社として方針を固めながら、嘱託社員の雇用を検討してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。